限りなくスペースのある空間で隣に座る、という行為に疑問の念を禁じ得ない
全市区町村の同胞へ捧げる
日本は島国である。
大陸ではないこの島国には、1億2千万人もの人間が住んでいる。
それはつまり、限りあるスペースを有効に活用していかなければならないことを示しているわけであって、誰もかれもが好き勝手に陣地を得ることは許されるものではない。
こと公共スペースに至っては、数多の先人たちが確立してきた法慣習「空気読め」によって各人が探り探り共有を行うのが鉄則である。
オカマとノンケは組み合わせが悪い、くらいには自明であることのように思える。
しかし、世を見渡すとどうだろうか。
各人の自由意志に任せて公共スペースの利用を推し進めた結果、一部の野蛮人がそうした自明の理を覆そうとしているのである。
そうした陰湿でエキセントリックな思想を抱く野蛮どもを駆逐すべく、私は今まさに立ち上がらんとする気持ちで、座っている。
公共スペース:電車
満員電車とは辛いものだ。
幸いというべきか、中学卒業以来人生の下降線を辿る私にも、TOKYOという世界に誇る大都市での仕事を与えられているため、満員電車というのは非常になじみが深い。
ラッシュ時には、人が折り重なり、舌打ちをし合い、時には痴漢を行う
ギューと押し込められた車内では、乾燥した季節が湿潤なものとなり、人々の肌に潤いを与え、エネルギーの伸縮を繰り返し、たまに痴漢が発生する
しかし、それもステージ2までである
乗車率120%などという狂気的な状態をステージ1とすれば、1時間もしないうちにステージ2が訪れる。つまり、やや余裕を持って乗車できる状態となる
それもそのはずである。
平均的な思考能力を持つ人間ならば、通勤範囲というものを自ずから設定し、その範囲内で住居を構えるため、下車駅は決まっているからだ。
ステージ2があれば、ステージ3があるのは必然。
乗車率においても、それは踏襲される。ある段階から徐々に社内の人員が整理され始め、いずれは全員が着席できる状態となるのである。
この段階では当該痴漢被疑者も下車となり、人々の心に余裕が生まれ始める。
そして待ちわびたステージ4
このステージでは更に乗車人数が減少の経過を辿り、席:人=6:1くらいの構図となる。
つい30分前まで鬼の形相で加齢臭を放っていた親父も、真剣な眼差しと類まれなる記憶力でAKBの歌詞を暗唱していたオタクも、誰もが深い呼吸を行う
「安堵」という言葉が宙を舞い、星になり、GIVE&TAKEの精神が満ち溢れる。
公共スペースにいるにも関わらず得ることのできる、この奇妙な安堵感は、絶対的な正義であり、未来である
この安堵を味わうためであれば、ちょっとした金目のものは盗んでもらって構わないし、スマホの最新機種を持てなくてもいい。
新商品のカップラーメンや松屋のプレミアム牛丼を食べられなくてもいい
もう、プレミアムと名の付く商品全般なくなってほしい
そう思った矢先、隣席に座る野蛮が現れたのである
見間違いか?
目をこする。いや、まごうことなき事実
にわかには信じがたき光景
弾けるほど
ばばあである
席:人=6:1の車内で、この四十路のばばあは隣に座っている
Why?--------------
我が自由なる絶対領域、
深淵から蘇りし美しなる場所、
混沌の世界を照らしうるスペース、
そう表現される我の隣席に、四十路のばばあが座っている
意味が、意味が分からない。
意味が、意味が分からないのだ
控え目にいって、意味が分からない
表現を変えよう
意味が分からない
理由を問いただしたい
しかし、私は冷静ではない。一種の錯乱状態といってもよい
このトランス状態で理由を聞いたところで、ばばあの言い分を理解することは不可能に近いといってよい。いや、到底不可能である。断じて無理
なぜこんなに空いているのに、隣に座ったんですか?
目が血走り、呼吸は荒い、花粉症に悩む犯罪予備軍の筆頭格のトランス状態野郎からこのような唐突の問いを繰り出そうものなら、逆に法廷騒ぎになりかねない
私は明確に自己分析ができていた
この憎き人間輸送車両にて、やっと手にした一筋の光明をいとも簡単に葬り去ったこのばばあを理解することは、トランスした私には到底不可能なのだ
無論前述の通り、逆もまたしかりである
更に私の状況は悪いものだった
端っこの席なのだ
いくらばばあから身を離せども、もう一方は壁
それは、日ごろデスクワークに興じる貧弱な30歳パーマ男にとって、到底突き破れるものではない。
追い詰められた
膝に抱えたカバンを、ギュッと握りしめる
なぜこんなにも恵まれたリソース(空席)があるにも関わらず、30歳のパーマ男はカバンを膝に抱え、肩をすぼめなければならないのだろう
この広々としたスペースで、隣をせしめんとする意地汚い独自のスタイルを貫くこのばばあは一体なんなのか
新たな人権、パーマのスペースを奪取するどんな権利がお前にあるというのか
そもそも一人当たりのスペースというものは、その場の総面積をその場に存する人数で割ってはじき出される。複雑な計算なので、高学歴にしか分からないかもしれない。すまない
つまり、この場合の一人あたりのスペースは、車両の総面積を車内人数で割ることで求めることができる。
車内の面積が一般的な57平米と置くと、当時の同一車両内人数はせいぜい10名である。
つまり、57÷10=5.7平米が一人あたりのスペースとなる
私の未曾有の経験の幅から判断するに、1席あたりの面積が0.4平米と仮定すると、5.7÷0.4=13.5席分のスペースを確保できるのだ
実際には席面積の倍程度の立ちスペースが含まれるので、一人当たり6〜7席は確保ができると考えられる
高度な教育機関でしか習わないレベルの崇高な数学的議論なので、付いてこれないものは、ここで画面を閉じたほうがよい。
これは遊びではない。
親の潤沢な資金を背景に、決死の思いで勉学に励み、数々の友達付き合いを無下にして辿り着ける、日本国の教育的頂点
悲しみ、怒り、恐怖、焦り、その全てに打ち勝つ予断なき努力が実を結び、はじめて私は公立小学校への入学という栄光を掴み取った
こうした比類なき努力を経験していない野蛮人に到底理解できるものではない
恥ずかしくはない
さて、話を進めよう
ここで、「スペース」という概念を振り返りたい
スペース
あいている所。空間。余白。場所。宇宙。▷ space
余白、宇宙だ
つまりこの四十路は、私の余白、宇宙を侵害しているのだ
許されざる行為
とてつもないデリカシーのなさ
カジュアルな言い方をすれば、馬鹿野郎である
どこかの映画に倣えば、「余白を埋めるな!」
余白ばばあは、結局私より先に下車することはなかった
To Do リスト
二度とこんな悲壮な思いはしたくない
私なりの対策をここに記しておきたい
同じ思いならびに今後同じ思いをしてしまうであろう全市区町村の同胞たちへ捧げる
まずは、即効性のある改善策をTo doリストとして列記する
①車両内広告吊りの空きスペースを活用
ここで、改めてスペースという言葉を使うことは本題とややこしくなるので、できるだけ避けたかったが仕様がない
当然、運行会社側の経営努力が第一であろう
お客様が余白を求めているのだ
ニーズに対して、応えてゆく姿勢は永劫続く企業の根幹となる
吊り広告はルミネのそれを参考にするとよいだろう。
何気ない一言のキャッチフレーズほど、人を動かすものはない
「余白、お持ちですか?」
少し弱いかもしれない。相手は野蛮人だ
余白=生活のゆとりと捉え違いをしてしまう可能性が高い
「いつまでそこにいる?」
これも悪い。
野蛮人を翌日から転職活動に駆り立てるだけかもしれない
「おい、席空けろ」
これだ。ストレートに心に響いてくる
耳慣れないフレ―ズに、視線は止まる
今月中にJR・私鉄問わず、全車両各8枚ずつの「おい、席あけろ」を設置することを義務付ける
②車掌の巡回
野蛮人は識字率が低いかもしれない
上記の広告だけでは100%安心はできない
そうした場合、やはり人的リソースを投入せざるを得ぬだろう
ステージ4、つまり席:人=6:1程度になったころを見計らって、車掌は車両内の巡回を実施せよ
そして、余白を埋め続ける野蛮人に対して「おい、席空けろ」
こう言ってほしい
客に対して失礼な言葉を発することにためらいがある車掌は、野蛮人の手前30cmのところへ15秒間ほど立ち尽くした後、空いている他の席を指さすといい
恐怖のあまり、野蛮人は一目散に移動するだろう
この場合、車掌というところがミソである。
アルバイトなどでは言語道断
社会的家庭的責任を持ったいい大人が、末恐ろしい行動を客に対して行うことに意義があるのだ
責任を持たないアルバイトが実行したところで、いわゆるバイトテロとしてしか扱われず、本質的に恐怖を与えることは不可能であろう
③逆に考えてみたい
もしかしたら余白お化けは遠慮しているだけなのかもしれない
わざわざ隣から離れたら、嫌な感じに取られちゃうかな★?などというふしだらな考えなのかもしれない
私ほどの高度な義務教育を受けた人間は視野が広い、一定の理解がある
しかし、あえて言いたい。そんなものはお粗末で陳腐なグリストラップ的発想だと。
お前が離れることでの嫌な感じより、離れないことの嫌な感じの方がずっとずっと上なのだ。それはもう、えらい違いで男の169cmと170cmと同様だ
④ワキのにおいを嗅ぐ
車掌から無言で眼前に立ち尽くされた挙句空席を指さされるという前代未聞の恐怖にも怯まぬ強烈な個性の持ち主には、一段上の対策を講じねばならぬ
それがワキのにおいを嗅ぐという具体的かつ効果的なアクションである
手順としては、君は自分のワキのにおいを嗅ぎさえすればよい
そして、「ん?違うか、どこから…?」とでもいえばよい
それを何度も繰り返す
次第に隣の野蛮人は気づく
もしかして、私ワキガ?
そう、真に緻密で心理的な誘導を与える魔法はしごくシンプルなものである
君が繰り返す単調な活動は、くさいけどおれじゃない、でもやっぱりワキ的なくささがする、おれじゃない、ん?くさい、おれか?、おれ以外にだれg、ああ、え!?わたし!?、わたしくさい!?わたしワキ、ワキワキ、わたいわき、わたし!ワキ、わきわかうぃkうぃいwかwきいい!?
となる
革命の狼煙
このような未知でシステマティックで大きな政治的危険性をはらんだ課題に対し、以上の場当たり的な改善策だけではもちろん不足だ。併行して、根本的な問題解決に向かう改革策を要する。
それはもっとクリエイティブかつセンセーショナル、猥褻的で、なお羽ばたかんとするドラスティックな策だ
一人あたりのスペースの捉え方について、全国へ啓蒙してゆく必要があるだろう
なまじ全国に啓蒙してゆくという大作業はで個人で達成することは極めて困難。組織的な動きが求められる
私は余白団体スペースクリエイティブエージェンシーを立ち上げる
クラウドファンディンク、政府からの補助金を得るためのロビー活動、駅構内での募金、
加えて全国の志士によるボランティアは必須。
我こそはという勇敢な気概・タフネスを持った全国の活動家たちよ、名乗り出てほしい
まずは本稿で紹介した計算式を伝えていかねばならない
一人あたりの乗車スペース=車両の総面積÷車両内人数
爆発的なヒットを記録した「うんこドリル」になぞらえ、「余白おしっこ」なる参考書を発行する
余白やゆとりをテーマに掲げた企業からの広告を掲載すれば、その収益からFREE PAPERとして発行できる
どんな良書でも手に取らない愚民が一定数いることは普遍の道理
ならば配る
3年もすれば、全国民へ「余白おしっこ」は行き渡るだろう
その後に誕生する赤子は、充分な余白教育を受けご立派になられた親御様から直接のご指導を賜ることができるのだ
小さき頃から英才余白教育を受けた人間の民度の高さは計り知れない
もはやホモサピエンスから次の形態へと歴史的な進化を遂げており、自身に余白を内包する存在足り得る。余白自体になっている可能性すらある
机上での教育だけで啓蒙は終らない
余白おしっこで理論武装をした余白中級たちが次に受けるステップは実践となる
電車車両を模した構造物を用意しよう
仔細なつくりは私鉄によって違うという地方の実情を鑑み、各自治体の裁量に委ねる
財政難の自治体にあっては、座席風の空気椅子を用意するだけでも構わない
余白組織から、全国の地方公共団体には十分に高度な余白知識レベルと感受性を備えた講師(Dream Space Teacher:通称DST)が派遣される
DSTの指導のもと、この配置で乗客がいる場合に君はどこに座るべきかという課題に対して、粘り強く取り組んでいく
なかには理解の早い(余白素地のある)者もいるだろう
最短で3週間程度の短期集中コースの受講も可能だ
逆に、余白について全く教養のない余白原始人にとっては険しい道のりとなる
だが心配はいらない
ONE on ONEなる個別指導サービスにも対応している
DSTが手取り足取り、数万に及ぶ乗車パターンを解説
君の学習進度に合わせて、個性を活かしたヒューマニズム溢れる授業を展開してくれる
さらにはオンラインでの質問も無制限に受け付ける
これはつまり、本番までフォローしてくれることに他ならない。試験でいえば替え玉受験である
いざ本番の乗車となった段にパニくって誰かの隣に座ってしまうかもしれない
むしろ行き過ぎた場合は、誰かの膝の上に座ってしまうかもしれない
そんな不安を一挙に解決してくれる
乗車1分前にオンラインでDSTと繋げ、まずは心を落ち着かせる
車両に乗り込むやいなや、カメラ機能でDSTが正確な乗客の位置情報を掴む
そしてどこに座るべきかの指示まで行ってくれる
これでもう、怖いものはない
極めつけは、特別プレゼント
今なら期間限定で「おい、席空けろ」ステッカー2枚綴りが付いてくる
これだけついて、3月限定
199,800円
さあ、いますぐ申込を行ってほしい
この機会を、逃すな
連絡先は以下の通り
space.seki@yohakumail.com
0120-489-489
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